「食べること、愛すること」People in Iowa #2: LT and Ahilia
"People in Iowa"第二回目は、オーガニックレストランを経営されている L.Tさん、Ahiliaさんご夫妻にお話をお伺いしてきました。
お二人が経営される"LT Organic Farm" を訪れたのはある夏の日のこと。
ふといつもは行かない道をドライブしていたところ、とても可愛らしい看板を発見しました。
緑に囲まれた小道を入っていくと、そこには絵本の中に出てきそうな一軒家と大きな庭が広がっていました。
お二人は、医師・看護師から農家・レストラン経営へ転職と、ユニークなバックグラウンドをお持ちです。
また、農家を始められる際、日本の農業経営から影響を受けられています。
今回は、お二人に、食べること、ライフワークの見つけ方についてお話をお伺いしました。
医学から農業へ
L.T(以下、L):
生まれ育ったガイアナで大学を卒業した後、さらに医療を学ぶためにアメリカの大学に入学し、卒業後、医者として10年以上勤務しました。
その中で、予防医学は農業と深く関係していると気付いたのです。
その時看護婦をしていた妻に、「病院を退職して、農家にならないか」と提案したところ、妻も私の考えに同意してくれました。
「野菜を作って生計を立てていくのは大変だよ」と友人からの反対もあった中、当時同じ病院に勤めていた同僚が「CSA」という概念について教えてくれました。
それが1995年のことです。
その後、研究を重ね、場所を移しながら、2000年にこの場所で農業活動とレストランを始めました。
オーガニック野菜を作るだけではなく、栄養学講座や料理教室を通じ、コミュニティの人々が食事について学ぶ場を提供しています。
今年の5月には本の出版も予定しています。
ーCSAとは何ですか。
L:
1960年代に日本で始められた、地域住民が地域の農家に代金を前払いし、直接農作物を購入する仕組みのことです。
農家にとっては作った分売れるという保証がありますし、購入者にとっては、無農薬の野菜を安心して、安価で購入できるというメリットがあります。
ーなぜ栄養学について興味を持ったのですか。
L:
ガイアナからアメリカへ移住した後、排泄物の変化に気付きました。
例えば、ガイアナにいた頃、尿の色は黄色でしたが、アメリカに来てしばらく経つと無色透明に近い色になりました。
その変化に気づいた頃から、栄養について深く関心を持つようになり、妻と二人で栄養学の勉強を始めました。
ービジネスを続けてきて、最も大変だったことは何ですか。
L:
一番大変だったのは、農業に適した土地を見つけること。
最初の頃は1年単位で賃貸契約をし、土の研究を重ね、移動を繰り返していました。
農業器具や車の荒らし行為に遭って移動したこともあれば、土が農業に適さず移動したこともあります。
この場所で営業して2年経った頃、良い土、CSAシステムを通じたお客様、ファーマーズマーケット、街の中心地からアクセスしやすい立地が揃っていると実感し、やっと定住地を決めることができました。
ー最も感動した瞬間について教えて下さい。
L:
毎日です。
毎日、自身や家族に関する問題を抱えた人が、助けを求めてここを訪れます。
医者・看護婦として働いていたバックグラウンドにより、お客様は私たちを信頼し、食に関するアドバイスを求めてくれます。
A:
ここへやってきて、私たちが推奨した方法での食事を始めた人は、体の調子が良くなったと話してくれます。
その言葉に心を動かされます。
アメリカとガイアナの食生活
A:
健康問題を抱えた人たちが、彼らの祖父母世代の食生活を思い出し、家庭菜園で育てた野菜を多く食べていた祖父母達は、自分たちよりもずっと健康だったと気付いたのです。
アレルギーやADHD(注意欠陥多動性障害)などを抱えた子ども達の親は、子ども達により健康的な食事を与えなければと気づき始めました。
私たちのお客様はそのように考えてここを訪れています。
7年ほど前から、アイオワでもオーガニックフードは一般的になってきました。
ーアメリカ人の食生活には、どのような問題が多いですか。
L:
野菜の調理方法を知らず、ほとんど牛肉・豚肉・鶏肉・じゃがいもしか食べていない人もいます。
そのため、私たちも料理教室に重きを置いています。
A:
私たちが農家を始めた頃、野菜を買ってくれたお客様に「味はいかがでしたか?」と聞くと、「冷蔵庫に入れてまだ食べていない」「友人にあげてしまった」という声をよく聞きました。
その反応を見て、料理教室を始めなければと思ったのです。
レジの店員さんに「この野菜は何?」と聞かれることもよくあり、キャベツやきゅうり、ズッキーニがどの野菜なのかわからない人もいます。
L:
そのため、今一番の優先事項は「食育」です。
私たちはここでは薬を処方しておらず、医学知識に基づき、体に良い食事方法をアドバイスしています。
本を出版するのもそのためです。
ー本を出版すれば、この地域に住んでいない人も健康的な食生活について知ることができますね。
L:
アメリカだけでなく、カナダやヨーロッパ、日本に住んでいる人にも、地域の農家をサポートし、新鮮な野菜を手に入れることができるCSAという仕組みを知ってほしいです。
農家から購入した新鮮な野菜を使った健康的な食事をとることが一番の薬になります。
免疫力を高め、病気を予防することができます。一番の予防医療なのです。
L:
アメリカに来て、初めてケンタッキーフライドチキンに行った時、私はチキン3ピースとビスケット、ポテトフライを注文しました。
食事が出てきた時、あまりの量の多さに驚きました。
「もしかしてお店の人が量を間違えたのかな?」と思って周りを見渡すと、皆がその量を普通に食べていたのです。
この量はまずいな、と思いました。
また、栄養学を勉強するにつれ、彼らがたった数種類の栄養素しか摂っていないことに気付きました。
栄養素は、微量栄養素(ビタミン・ミネラル)と、多量栄養素(タンパク質・脂肪・炭水化物)に分けることができます。
アメリカ人は、多量栄養素は必要以上に摂取していますが、野菜による微量栄養素の摂取が足りません。
ガイアナでは、少量のお米、魚、肉と、ほうれん草、チンゲンサイ、ゴーヤ、ナスなどたくさんの野菜や豆を摂ります。
伝統的な日本の食生活、特に沖縄の食生活に似ていると思います。
ガイアナの料理を日常に取り入れたければ、ぜひ沖縄の料理に挑戦してみてください。
ーランチメニューは、ガイアナ料理とインド料理をミックスしたものとお伺いしました。
ガイアナ料理自体もインドから影響を受けているのでしょうか。
A:
そうですね。私たちの祖先はインドから来ましたから。
イギリス人がインド人をガイアナへ連れてきたのです。
中国や来た人も多かったため、インドと中国の味が混ざり、ガイアナ料理ができていきました。
また、ガイアナでは生野菜は食べませんでした。
ー生野菜の摂取についてどうお考えですか。
L:
良くないというわけではありませんが、メリットも少ないです。
近年まで、生の野菜を食べている国はありませんでした。
しかし、みんながアメリカの食生活を取り入れ始めてから、生野菜が一般的になったのです。
A:
栄養面を考えた時、例えば、ブロッコリー・カリフラワー・ほうれん草などほとんどの野菜はよく加熱調理する必要があります。
シチューやスープにするのがいいと思います。
ー長時間加熱調理すると、栄養成分が壊されてしまうと思っていました。
A:
そういったイメージを持っている人もいると思いますが、実際は加熱調理した方が栄養を吸収できるのです。
栄養分を吸収するためには、加熱によって細胞壁を壊す必要があります。
家族と心地よく過ごすために
L:
良い音楽を聴くこと。
ヒンドゥー教や仏教に関する音楽が好きです。
また、寝る前には、鏡の前で髪をとかし、自分がハンサムに見えるか確認します(笑)。
A:
私は、早起きして庭に出て、作物が育っている様子を見ることが一番好きです。
庭を眺めていると、すごく幸せな気分になります。
夏は毎朝二人で外に出て、「これは食べごろかな?まだかな?」と、作物の状態を確認しています。
ーお二人は4人のお子さんを育てられていますが、子育てのことについてお伺いしてもいいですか。
A:
子どもたちには小さな頃から、農業の仕事を手伝ってもらっていました。
2歳の頃には、畑で作業をする私たちの近くにいました。
4歳の頃には、野菜を運んだり、家畜への餌やりを手伝ってくれました。
子どもが15歳になった頃には、レストランのお客様への説明をお願いすることもありました。
そのことを通じて、彼らは私たちの考え方を学んでくれました。
今、子どもたちは医学・看護学を学ぶため家を離れています。
子どもたちには、学び、自分の人生について考える時間を持ってほしいです。
その上で、私たちの事業を継ぎたいと思ったら帰ってきてくれればと思っています。
ライフワークの見つけ方
ーお二人のお話を聞いていると、お仕事がプライベートや家族生活と調和していて、まさにライフワークを見つけられているように感じます。
ライフワークを見つけるためのアドバイスをいただけますか。
A:
私は進路を選択した頃、何をしていいかわかりませんでした。
看護師になったのは、働き口があり、専門性があり、十分な収入が得られると考えたからです。
その後、地域社会により貢献するためには?と考えた時に、農業とレストランを始めました。
私たちは、今取り組んでいる事業に愛着を持っています。
今取り組んでいることを愛することができれば、きっと成功につながるでしょう。
L:
生活の質を保てるような専門性をどう身につけるか、社会や他の人にどう貢献するか。
その2つのことを考える必要があります。
川は、その水を自ら飲むことはありません。
木は、育てた果実を自ら食べることはありません。
私たちは、自然の恵みのおかげで生きている。
だから、私たちは他の人を助けた時初めて、人間だと言えるのだと思います。
また、子どもたちは、おじいちゃんおばあちゃんともっと話す機会を持って欲しいです。
きっと何をすべきなのか、ヒントが見つかるはずです。
ーおじいさん・おばあさんから何を学びましたか。
L:
私は血の繋がった祖父母を知りませんが、育った村にはたくさんのお年寄りがいました。
彼らは、若い頃どのようにしてインドからガイアナに移住してきたかを語ってくれました。
召使いとして移住してきた彼らの生活は厳しいものだったので、私に教育を受けるよう勧めてくれました。
私の両親は私に農家になってほしくなかったので、医学を学んでたくさんの人を助けるように、と勧めてくれました。
そして一周回って、今私は農家をしています(笑)。
これは素晴らしい宿命だと思っています。
Q. 最後に、メッセージをお願いします。
L:
私たちの成功は、1960年代にCSAを始めた日本人の主婦の方のおかげだと、とても感謝しています。
また、今年5月に出す本のタイトルは「Doctors' Silent Partners, Our Farmers」を予定しています。
厚い本ではありませんが、私たちの物語と食について大切なことが詰まっていますので、ぜひ読んでほしいです。
A:
また、アイオワにお越しの際には、私たちのレストランで、自然の中で鳥の声を聞きながら過ごす時間を楽しんでほしいです。
インタビューを終えて
医療から農業。
外から見ると大きな方向転換に見えますが、お話をうかがい、地域社会に貢献したいという気持ちに従った自然な決断だったんだと感じました。
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