自分の人生が愛おしく思える1冊
みなさんには、何度も読み返している、特別な1冊はありますか?
本を買っては持ちきれなくなって売り、またあっという間に本棚がいっぱいになり…を繰り返している私ですが、初めて読んでからずっと大切にしている1冊があります。
それは、長田弘さんの「人生の特別な一瞬」。
自然の美しさや旅先での風景を描いた散文詩集です。
「詩」というと、教科書の中のもの、意味がとらえにくいもの、というイメージがありましたが、長田さんの書く散文詩に出会ってその印象はがらりと変わりました。
こんなに心の奥に染み込んで、自分の中の感覚を呼び起こしてくれる文章があるなんて、と。
例えば、こんなフレーズがお気に入りです。
立ちどまって、空を見上げていると、いつか時間が淡くなって、透きとおってゆくのがわかる。見まわすと、周囲の光景がぜんぶ、空の色に染まっている。
秘境も絶景もないが、遠くの街の日常を訪ねる旅の時間には、じぶんの感受性を更新できる、不思議な時間が隠れている。
この本には、長田さんにとっての特別な一瞬を美しい言葉で綴った詩がたくさん。
電車の中でも、お気にいりのソファの上でも、街のカフェの中でも、この本を読むだけで、日常から離れて、森の奥深くにいるような感覚になります。
そして、自分自身の「特別な一瞬」も次々心の中に蘇ってきます。
例えば、寒い朝のぴりっとした空気の中で輝く、氷の結晶たち。
朝の光に包まれて、美しさを放つ桜の花。
高台からいつまでも眺めていたかった、夕日色に染まった空。
一日が終わって街を見上げたときの、あたたかな光。
そういえば、今まで過ごしてきた日々ってこんなに素敵な一瞬がたくさんあったんだと気付き、温かい気持ちになります。
特別なものは何もない、だからこそ、特別なのだという逆説に、わたしたちの日々のかたちはささえられていると思う。
毎日が何となく退屈に思えたり、自分がものすごく平凡に思えてしまう時、この本を読んで、「特別な一瞬」を思い出してみませんか?
きっと、自分の人生がより愛おしく感じられるはずです。
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